
フレンチプレスとドリップ式、どちらが優れている?
すべての抽出方法が同じというわけではありませんが、「これがベスト」と断言できる方法はあるのでしょうか?本当に、どちらを選ぶかは重要なのでしょうか?この記事では、フレンチプレスとドリップ式(いわゆる“プアオーバー”)の歴史、それぞれの仕組み、そして生まれる風味の違いを詳しく解説します。読み終えるころには、この 2 つの人気抽出法の違いが明確になり、自分の好みに合った方法が見えてくるはずです。
フレンチプレスとドリップ式の歴史
フレンチプレスは、19 世紀のフランスに起源を持つ歴史ある抽出法です。当時のコーヒー愛好家たちは、粗挽きの豆にお湯を注ぎ、チーズクロスで包んだ即席のプランジャー(押し棒)を使って豆と液体を分離していました。この方法は 1857 年、パリの金属職人アンリ=オットー・マイヤーと商人ジャック=ヴィクトル・デルフォルジュによって特許化され、現代のフレンチプレスの原型となりました。その後、イタリアのデザイナー、アッティリオ・カリマーニによって 1920 年代にガラスと金属の洗練されたデザインへと進化しました。以来 100 年以上、「浸漬(しんし)抽出 → プレス」という基本構造は変わっていません。
一方で、ドリップ式(プアオーバー)は、1908 年にドイツの主婦アマーリエ・アウグステ・メリッタ・ベンツが考案しました。パーコレーターのコーヒーの苦味とざらつきに不満を感じていた彼女は、息子のノートの吸取紙と穴を開けた真鍮ポットを使ってろ過装置を作成。これがペーパーフィルターの起源となりました。同年、メリッタ社を設立し、特許を取得。1909 年のライプツィヒ見本市で発表されたこの方法は、後に Chemex(ケメックス)や Hario V60 などに継承され、世界中のコーヒー愛好家に愛される抽出法となりました。
フレンチプレスの抽出方法
フレンチプレスは、そのシンプルさと「全体浸漬式」の抽出スタイルが魅力です。使い方は簡単:粗挽きのコーヒー粉をカラフェに入れ、熱湯(約 90〜96℃)を注ぎ、4〜5 分蒸らした後、金属フィルター付きのプランジャーをゆっくり押し下げます。これでコーヒー粉が下に押し固められ、濃厚で香り高い一杯が完成します。
この浸漬式抽出は、コーヒー豆の天然オイルや微細な成分をしっかり抽出できるため、深みのあるフルボディな味わいが得られます。口当たりはなめらかで、余韻が長く、土っぽさやチョコレート、スパイス、ナッツといったダークローストの風味と特に相性が良いです。ただし、紙フィルターを使わないため、微細な粉がカップに残り、ざらつきを感じる場合もあり、好みが分かれるポイントです。
ドリップ式(プアオーバー)の抽出方法
ドリップ式は、手動で丁寧に抽出する方法で、フレンチプレスとは異なり「注ぎながら抽出」する透過式(インフュージョン)です。必要な道具は、ペーパーフィルター、ドリッパー(メリッタ、V60 など)、お湯(約 90〜96℃)、そしてできれば細口のドリップケトルです。
中細挽きの粉をフィルターに入れたら、まず少量のお湯を注いで「蒸らし(ブルーミング)」を行います(30〜45 秒)。これにより豆から炭酸ガスが抜け、風味の抽出がしやすくなります。その後、お湯をゆっくりと円を描くように注ぎ、抽出を進めます。注ぎ方のスピードや湯量、粉の粗さなどによって味が微調整できるため、技術を磨く楽しさも魅力です。
ペーパーフィルターのおかげで、余分なオイルや微粉が除去され、クリーンで澄んだ風味が特徴です。軽やかで繊細な花のような香り、果実味、柑橘系の酸味が活きるため、ライト〜ミディアムローストの豆と好相性です。
味の違いを比較
フレンチプレスとドリップ式の最大の違いは、「味の質感」にあります。
- フレンチプレス:フィルターなしで油分も抽出されるため、濃厚でどっしりとした風味になります。まるで“食事のようなコーヒー”で、深煎り豆の重厚さが際立ちます。味わい深く、香りが強いのが魅力です。
- ドリップ式(プアオーバー):紙フィルターが油分や粉を除去するため、すっきりとした透明感のある味わいに仕上がります。フルーティーな酸味や繊細なアロマが際立ち、産地や焙煎度の個性をより感じやすいです。
例えるなら、フレンチプレスは「山小屋の濃厚なシチュー」、ドリップ式は「フレンチレストランのコンソメスープ」といった違いがあります。
結論:すべては好み次第
では、フレンチプレスとドリップ式、どちらが優れているのでしょうか?
答えは「あなたの好み次第」です。
- 力強く、コクがあり、オイル感のある一杯を楽しみたい人には、フレンチプレスがぴったり。シンプルで手間が少なく、味わいが濃いのが魅力です。
- すっきりとした味、豆本来の繊細な個性を引き出したいなら、ドリップ式がオススメ。注ぎ方や抽出時間の調整ができるので、実験好きな人には最適です。
ポイントは、味の方向性の違いです。
フレンチプレスは「重厚でどっしり」、ドリップ式は「明るく繊細」。
優劣ではなく、目的や気分に応じて使い分けるのがベストです。
ぜひ、いつものお気に入りの豆で両方を試して、自分の舌で確かめてみてください。
「一番おいしいコーヒー」とは、あなたを一番幸せにする一杯なのです。